慰謝料を請求できる条件
婚約中に肉体関係を伴う浮気をされた場合には、民法709条で定められている、不法行為に基づく損害賠償請求として、婚約者と配偶者の両方に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料を請求できる条件は以下の5つです。
婚約が成立している
婚約が成立していれば、お互いに結婚をする約束をしているということになり、お互いに結婚の約束を履行する法的責任を負うことになります。
そこで婚約が成立した後に婚約者が浮気相手と関係をもつと、不法行為として慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし婚約が成立しているとして法的に保護されるためには、以下の客観的な事情が必要です。
- 婚約指輪を渡している
- 結納を済ませている
- 互いの家族
- 友人に紹介している
- 結婚式場や新婚旅行の予約をしている
以上の客観的な事情を満たしていない場合は、当事者間で婚約が成立しておらず、婚約中ではなく交際中の男女とみなされ、法的な保護が与えられないことがあります。
浮気が不貞行為に該当する
婚約中の「不貞行為」とは、婚約者が自分の婚約者以外の人物と肉体関係を持つことを指します。
婚約した当事者は、夫婦同様に貞操を守る法的な義務があり、不貞行為があった場合には「夫婦同様の共同生活の平和を維持する」という法的権利・利益の侵害にあたります。
法的権利・利益の侵害は婚約者が第三者と性行為をしたことで侵害されるとみなされるため、キスやデートでは不貞行為としてみなされません。
時効成立前である
慰謝料の請求には時効があります。
浮気の事実と浮気相手を知ってから3年間・浮気の事実があった時から20年間のうち、いずれか早い時点で慰謝料を請求できる可能性があります。
浮気相手に対して慰謝料を請求する場合、相手の顔はわかっていても名前や住所を知らないと浮気相手を知ったとはいえません。
つまり浮気相手を特定できるまでは3年の時効はカウントされないということになります。
浮気相手が婚約していることを知っていた
婚約中に浮気をした婚約者と浮気相手は、共同して他人の「夫婦同様の共同生活の平和を維持する」という法的権利・利益を侵害したとして、「共同不法行為」が成立します。
共同不法行為が成立すると、浮気に両当事者は被害者に対して慰謝料を支払う義務が発生します。
そこで浮気相手に慰謝料を請求する場合、浮気相手が婚約の事実を知っていた、もしくは過失によって知らなかったといえることが必要になります。
婚約中の浮気と違い、交際中の慰謝料は請求できないため、浮気の事実があった時に婚約の事実を知っていたかどうかで慰謝料が請求できるかどうかが変わります。
浮気相手が婚約しているとは知らなかったと言い張った場合も、婚約者と関係を持つ際に、配偶者や婚約者、交際中の相手がいないかを確認しなかったという理由で、過失を問われるパターンもあります。
浮気を理由に婚約が破棄・解消された
夫婦間で不貞行為があった場合、夫婦が離婚しなくても慰謝料の請求をすることができます。
婚約関係の場合はまだ結婚に至っていないため、夫婦関係よりは法的な保護が薄くなっています。
浮気の事実があったけれど婚約関係が継続し、結婚に至った場合は浮気相手が当人に与えた損害が小さいものであるとされ、慰謝料を請求できないことがあります。
浮気相手に請求できる慰謝料の相場
婚約中の浮気の慰謝料の相場は、数十万円~200万円程度であるといわれています。
ただし以下のような条件で浮気が悪質であると判断された場合、慰謝料が増額する可能性があります。
- 浮気していた期間が長く、回数が多い
- 婚約していた期間が長く、事実上夫婦とみられる実態があった
- 結婚式場を手配していて、浮気が発覚したせいでキャンセル料がかかった
- 浮気相手が婚約者の子どもを妊娠または出産をした
- 反省がない
ただし、浮気が原因で婚約破棄にならなければ、浮気により受けた損害は大きくないものであると判断され、金額が少額になることが多いでしょう。
浮気相手に慰謝料を請求する方法
浮気相手に慰謝料を請求する方法は以下の3つです。
話し合いで請求する
浮気相手に慰謝料を請求するときはまず始めに、話し合いで請求します。
浮気相手の連絡先がわからないときは婚約者から聞く必要がありますが、婚約者の協力が得られない場合は探偵に依頼するという方法もあります。
話し合った末に慰謝料の支払いについて合意がまとまれば、合意書を作成します。
合意書の内容は慰謝料の金額や支払方法、支払い期限、支払いを怠った時のペナルティなど。
この合意書を公正証書にしておけば万が一慰謝料が支払われなかった場合に強制執行で財産の差し押さえをすることができます。
慰謝料請求の申し立てをする
話し合いで解決できない場合は家庭裁判所に慰謝料請求の申し立てをして、調停によって慰謝料を求めることができます。
調停では調停員が間に入り、本人同士は顔を合わせることなく問題解決へと導かれます。
相手が調停に出席しなかったり、慰謝料の額に合意が得られなかったりした場合、解決が困難になり、裁判へと移行する必要があります。
慰謝料請求訴訟を起こす
調停で話がまとまらない場合、裁判へと進みます。 婚約が成立していたかどうか、それを浮気相手が知っていたか、過失により知らなかったか、といった事実関係に食い違いがある場合、証拠を集めて提出する必要があります。
裁判は訴状の提出から第1回口頭弁論がひらかれるまでは1ヶ月以上かかります。
相手が反論をした場合は複数回の弁論を行うため、判決まで1年以上かかることもあります。
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浮気相手に慰謝料を請求するために集めておくべき証拠
浮気相手に慰謝料を請求するためには、以下のような証拠を集めておく必要があります。
婚約の証拠
婚約は当事者間の合意によって成立しますが、法的に保護されるためには客観的な事情が必要であると先に説明しました。
ただし浮気をした婚約者が婚約の客観的な事情を否定する可能性があるため、以下のような婚約の証拠を準備する必要があります。
- 結婚式の申込書や予約表、内金の領収書
- 婚約指輪やその鑑定書、領収書
- 結納品や結納品を購入した際の領収書
- 結婚の約束をした際のメールやLINEの文言
このように婚約が成立していたと客観的に証明できる証拠を集めましょう。
浮気の証拠
婚約中の浮気で慰謝料を請求する際、婚約者と浮気相手との間にキスやデートだけではなく、性行為があったことを立証する必要があります。
肉体関係があったことを立証できる証拠は以下のようなものです。
- 性行為や2人でラブホテルに通っている様子をとらえた写真や動画
- 性行為が確認できる内容のメールやLINEのやりとり、通話データ
- 浮気相手と利用したラブホテルの領収書
- 浮気をしていることがわかる、探偵の調査報告書
浮気相手が婚約の事実を知っていた証拠
浮気相手に慰謝料を請求するためには、浮気相手が婚約の事実を知っていて、故意により関係を持った、または過失により知らなかったことを立証する証拠が必要です。
浮気相手の故意や過失を立証するために、以下のような事実があったことを証明する必要があります。
- 夜間など限定的な時間帯しか会っていない
- 土日に連絡しておらず、会ってもいない
- 親や友人を紹介されていない
- ホテルや自宅などの密室でしか会っていない
このような一般的な交際関係ではありえない事情があったにも関わらず、相手が婚約していることを知らなかった、または確認しなかったことは、通常必要とされる注意義務を欠いているとして過失が認定される可能性があります。