従業員の不正行為にはどんなものがある?過去の事例も紹介
会社で発生することが多い不正行為の事例
まずは不正行為(コンプライアンス違反)と呼ばれるものにはどのようなものがあるか確認しておきましょう。
- 業務上横領(会社や顧客の金銭の着服、商品や備品の盗難・横領・転売など)
- 機密情報(社外秘)の流出
- 経費の不正請求
- 顧客情報の不正利用・持ち出し
- 書類の偽造、データの改ざん
- 不正な取引、背任(不正融資、不良貸付など)
- インサイダー取引
- ハラスメント(セクハラ・パワハラ・モラハラ・暴力など)
- SNSに不適切な内容(誹謗中傷・侮辱など)を投稿
いずれの事例も、会社に大きなダメージを与える問題です。
例えプライベートな場面での不正行為であっても、勤務先が特定されると会社の損害に繋がる可能性は否定できないでしょう。
従業員の不正行為・コンプライアンス違反の有名な事例
- 三菱UFJ銀行の行員が貸金庫から客の資産(現金・貴金属等)時価10数億円程度を窃取(2024.11)
- セコム株式会社の従業員が現金約2,000万円を着服(2024.02)
- バンダイナムコエンターテインメントの従業員が会社が管理するスマホ約500台を窃盗・転売(2024.05)
- 東京・池袋パスポートセンターで勤務していた契約社員が約1920人分の顧客情報を不正に持ち出し(2023.05)
- NTTグループが受託していた会社の従業員が約900万件の顧客情報を不正に持ち出し(2023.10)
- 映画製作・東映の男性従業員が女性従業員にセクハラ行為(2023.06)
- 京都府警本部長が部下らに対し「殺すぞ」などの暴言・不適切発言(2024.10)
上記のほかにもさまざまな事例があり、「調べてみたら組織的な犯行だった」「気が付いたときには不正だらけだった」という例も少なくありません。
従業員の不正行為は他人事ではないと意識し、不正行為が発覚したときの対処方法を知っておくこと、また不正行為がおこらないよう防止策を講じるのは必要不可欠であると認識しておきましょう。
従業員が不正行為をしてるかも?対応の流れを解説
1. 情報の整理
従業員がどのような不正行為をおこなっているのか、まずは情報を整理しておきましょう。
- 不正行為の内容について
- 情報源について
- いつ頃から不正行為がおこなわれていたか
- 現在も継続中なのか、過去の話なのか
- どこで不正行為がおこなわれている(いた)のか
- 会社にどのような影響が出ているのか
- 計画性の有無
- 不正をおこなった理由
- 証拠の有無 など
今後の対応をスムーズにするためにも、分かる範囲で、またできる範囲で情報を整理しておきましょう。
2. 社内対策チームを設立
従業員に不正行為疑惑があるときは、信頼できる役員・従業員で構成する社内対策チームを設立しましょう。
メンバーは法務部や内部監査部、コンプライアンス部などから選出・選任するのが理想的ですが、人数を最小限に絞ることがポイントです。
そうすることで情報の共有がおこないやすくなり、同時に情報が流出するリスクを押さえることができます。
社内に適した人物がいないとき、また内密に調査を進めたい場合は、探偵事務所や興信所に企業調査を依頼するのもおすすめです(企業調査の内容については後述します)
3. 事実確認の調査・検証
対策チームによる不正行為の事実確認・裏付けをおこないます。
- 利益剰余金・内部留保金・社内預金・商品や備品の在庫などの確認
- 伝票・帳簿類・重要書類・メールなどの調査・確認
- SNSへの投稿内容の調査・確認
- 内部通告者・関係者へのヒアリングやアンケートの実施
- パソコンのデータ記録・アクセスログの調査・確認
- インターネットへのアクセスログの調査・確認
- 証拠の保全
ここでの調査結果が、のちの対応や処分などの決定に大きく影響します。
二重にも三重にも証拠隠滅を図っている恐れもあるため、慎重、かつ迅速に、さまざまな角度・視点から事実関係を確認・整理していきましょう。
不正行為をしている従業員は単独犯とは限りません。
ときに「上司から不正をしてでもノルマを達成するよう強要された」「1人でやったことにしろと脅された」といったケースもあります。
単独犯なのか、あるいは複数犯なのか、不正を強要された事実はないかなど、幅広い視点で調査をおこなうようにしましょう。
4. 外部への専門家への相談・企業調査依頼を視野に入れる
不正行為の証拠がない・不十分なときに「不正行為はなかった」と判断するのは大変危険です。
証拠を見つけ切れていないだけの恐れもあるため、専門家(探偵事務所・デジタルフォレンジック調査対応企業など)による再確認をおこなうことが望ましいでしょう。
【専門家がおこなう企業調査とは】
企業調査とは、会社・企業・組織内で発生した不正行為の証拠の収集、また不正行為を未然に防止するための助言をおこなう調査のこと。
「信用調査」「与信調査」などとも呼ばれています。
業務上横領はもちろん、情報漏洩やデータ改ざんなどさまざまな不正行為に対応しており、必要があれば対象者の素行調査や尾行調査、潜入調査などをおこなうことも可能です。
不正行為が業務上横領などの犯罪行為に該当するときは、のちに刑事告訴へと進むことがあります。
このときに必要となるのが「確固たる証拠」です。
証拠が掴めないとき、また証拠が不十分なときは専門家による企業調査を視野に入れることをおすすめします。
もうひとつ注意しておきたいのは、匿名による内部告発。
社内の通報窓口、または社外の相談窓口に「匿名」で情報が寄せられた場合、対策チームは告発者に直接ヒアリングをおこなうことはできません。
寄せられた情報だけでは調査が進まない場合、社外の内部通告窓口にその旨を連絡したうえで外部の専門家へ企業調査の相談・依頼をおこなうことをおすすめします。
(参考元:消費者庁「事業者における通報対応に関するQ&A」)
5. 取引先・被害者への対応
従業員による不正行為が確定した場合、株主・取引先・債権者・被害者への対応を迅速におこないましょう。
ここで迅速、かつ丁寧に対応することで会社の評判や株価の下落を最小限に抑えることが可能です。
【株主・取引先・債権者などへの対応】
不正行為が発覚した経緯や調査の具体的な方法、不正行為が確定した事項など、各段階において情報を開示しましょう。
このとき、一斉にプレスリリースするのか、個別に連絡するのかは、先方との親密さなどによって検討する必要があります。
【被害者への対応】
不正行為によって被害者が発生した場合、少しでも会社に責任があるときは「使用者責任(民法715条)」として謝罪や損害賠償をおこなう必要があります。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
(引用元:e-GOV法令検索「民法715条 使用者等の責任」)
被害人数・被害金額などを把握し、適切な対応を心掛けましょう。
示談をおこなう場合は顧問弁護士や外部の弁護士をたて、慎重に示談交渉を進めることをおすすめします。
6. 従業員の処分を決定
不正行為をおこなった従業員に対し、会社側は減給・停職・免職などの懲戒処分、ならびに損害賠償請求などをおこなうことができます。
いずれも不正行為の経緯(故意・過湿・理由・損失額など)を十分に検討する必要があり、法的な知識も必要です。
ここで気を付けておきたいのは、不正行為に対して重すぎる処分をくだしてしまうこと。
逆に従業員から訴えられる恐れも考えられるため、社内の顧問弁護士、または外部の弁護士と連携し、法に基づいた処分内容を検討するようにしてください。
7. 犯罪行為に該当するときは刑事告訴を
業務上横領や背任などの犯罪行為があったときは刑事告訴をおこないましょう。一般的な刑事告訴の流れは次のようになります。
- 被害者が告訴状を警察に提出する
- 警察による捜査がはじまる
- 犯罪行為が事実であれば、加害者は逮捕・勾留される
- 検察官が起訴・不起訴を決定する
- 起訴された場合、加害者は刑事処罰を受ける
「あまり大ごとにはしたくないから」「初犯だから」などの理由で「刑事告訴はしない」という事例を作ってしまうと、次に悪質な不正行為がおこったときに悪影響を及ぼします。
見せしめという言葉は相応しくはありませんが、社員に「不正行為をおこなうと処罰される」というメッセージを送るためにも適切な処分をおこないましょう。
業務上横領罪の公訴時効期間は7年、法定刑は10年以下の懲役です。
また背任罪の公訴時効は不正行為の内容によって5〜7年と異なり、法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
不正行為を未然に防止するには?対策を解説
冒頭でもお伝えしたように、従業員の不正行為は会社の利益や評判を損なうだけでなく、株価の下落や倒産に追い込まれることもあります。
そうならないためにも、不正行為を未然に防止する対策を強化することが重要です。
不正行為が発生しやすい「不正のトライアングル」
不正行為は「機会・動機・正当化=不正のトライアングル」が揃ったときに発生しやすいといわれています。
【不正のトライアングルとは】
- 機会…金銭を管理している場所に監視カメラを設置していない(または誰でも入出できる)、パソコンのセキュリティ対策が万全ではない、上司が部下の行動をチェックしていない、二重チェックの体制ができていない など
- 動機…借金、ストレス、プレッシャー、会社や上司への不満 など
- 正当化…給料が安いから仕方ない、みんなやっている、不正行為に気付かない監視体制の甘さが原因
ほかにもさまざまな例があるでしょう。
不正行為を未然に防止したいときは、不正のトライアングルを減少させられるよう会社側の体制を整える事が重要になってきます。
会社ができる不正行為の防止対策
不正のトライアングルを減少させるためにも、次のような対策を実施しましょう。
- 「機会」を減少させる…監視カメラの設置、情報セキュリティの強化、計画的人事異動(ジョブローテーション)、定期的な内部監査 など
- 「動機」を減少させる…定期的な個人面談(1on1)、福利厚生の充実、業務部内のコミュニケーションの活性化、ハラスメント教育、休暇を取りやすい環境づくり など
- 「正当化」を減少させる…社員教育、コンプライアンス研修、匿名で相談・通報できる社内窓口の設置
上記のような対策があげられます。
社内だけで実施するのが難しいときは、外部の専門機関に相談・依頼するのもおすすめです。
- 企業問題に詳しい弁護士事務所
- 企業調査や信用調査に強い探偵事務所
- 組織づくりをサポートする危機管理コンサルタントサービス
自社に最適な専門機関を選考するためにも、まずは各社の無料相談・無料見積もりから利用してみましょう。