会社で起こる「業務上横領」の定義と具体的な種類

「業務上横領罪」とは、会社や組織などの他者から委託され、業務として管理・保管している金銭や財物を、自分のものにしたり、勝手に処分したりする行為を指します。
これは単なる窃盗や横領(単純横領)よりも悪質とされ、法定刑も重くなっています。
また、一口に横領といっても、その手口は多岐にわたります。
【参考】刑法第253条 業務上横領
「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。」
出典:刑法-e-Gov 法令検索
現金・金銭を狙う横領の主な手口
金銭を直接的に着服したり、経費を不正に操作したりすることで、会社の資金を騙し取る手口です。
ここでは、特に多く見られる具体的な手口について解説します。
- 着服
顧客からの集金や売上金といった現金を、会社の口座に入れず、自分の財布に入れる行為です。
金銭を直接扱う業務で起こりやすい手口です。
- カラ出張・カラ残業
実際には発生していない交通費や残業代を水増しして請求し、会社から不当に金銭をだまし取る行為です。経費精算の仕組みを悪用します。
- キックバック
取引先との発注や契約において、適正な金額を水増ししたり、不透明な取引をしたりすることで、その一部を個人的に受け取る行為です。
- 伝票操作
伝票や領収書を改ざんし、経費を水増ししたり、支払い先や使途を不明瞭にしたりすることで、会社の金銭を不正に自分の利益にする行為です。
備品・その他を狙う横領の主な手口
金銭そのものではなく、会社が管理する備品や在庫といった「財物」を不正に処分し、金銭に変えることで利益を得る手口です。
主な手口は次のとおりです。
- 備品の横流し・転売
会社で購入した新品の備品や、本来廃棄すべき在庫を無断で持ち出し、フリマアプリなどで売却して、個人的な金銭を得る行為です。
- 架空発注
存在しない業者やペーパーカンパニーに対して発注を装い、請求額を横領する行為です。
特に仕入れや調達部門で起こりやすい巧妙な手口です。
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横領している人の特徴・性格とは

横領は、主に「動機」「機会」「正当化」の3要素が揃ったときに発生しやすいとされています。
ここでは、横領犯に見られる特徴を詳しく解説します。
多額の現金が必要な理由がある
横領している人は、給料や収入では賄いきれない多額の現金が必要なケースが多い傾向があります。
- ギャンブル依存
- 買い物依存
- ブランド依存
- 借金がある
- 不倫相手や恋人に金銭を貢いでいる
- 過度な推し活など私的な趣味に多額の費用をかけている
普段の言動やルックスで犯人の目星がつくこともありますが、ときには「まさかあの人が」という人が犯人だったというケースもあります。
はっきりとした証拠をつかむまでは、軽率に「あの人が犯人だ」と決めつけないことが重要です。
横領しやすい環境にいる
横領はどんな職場でも起こりうることですが、次のような横領をしやすい環境に身を置いている人は、犯行に及ぶ機会が多いといえます。
- 現金や通帳など、金銭を取り扱う部署・職場にいる
- 顧客と直接的に金銭のやり取りをする機会が多い(営業職、レジ業務、訪問業者など)
- 新品の備品や在庫を多く取り扱っている(調達部、倉庫管理、事務職など)
- 電話番などで一人になる機会が多く、監視の目がない
- 横領や不正が行われても、上司や同僚に気付かれにくい環境にある
特に、経理部・営業部、在庫を管理する部門は横領の機会が多く、被害を拡大させないためには、被害に気付いた時点で早めに対処を行うことが必要になります。
パーソナリティに問題がある
横領をする人は、自分の行為を正当化するために、普段からパーソナリティ(人格・人柄)に問題がある言動が多く見られる傾向があります。
- 自分の非を認めず、言い訳が多い
- 自分のミスを他人や環境のせいにする
- 平気で人を傷つけたり、嘘をついたり、騙したりする
- 法律やルールを軽視する、または守れない傾向がある
- 職場で不機嫌な言動や八つ当たりが多い
パーソナリティに問題がある人は、横領が発覚したときに「給料で穴埋めするつもりだった」「会社側の管理がずさんなのが悪い」など、反省せずに開き直ることもあります。
まれに、窃盗症(クレプトマニア)や反社会性パーソナリティなどの精神疾患を抱えているケースも存在します。
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見逃してはいけない!横領犯に見られる5つの行動の変化

横領犯は、社内で日常的に見せる行動や態度にも不自然な変化が生じることがあります。
これらの変化は不正のサインを見抜くための重要な手がかりとなります。
変化1. 急に私生活が豪華になる
横領によって得た不正な資金は、多くの場合、私的な借金返済や浪費に使われます。
それまで質素だった人が、急に高級車やブランド品を購入したり、頻繁に高額な趣味や贅沢な旅行に出かけたりするなど、給与に見合わない浪費の傾向が見られるようになります。
これは、不正によって得た金銭を人に見せびらかしたいという心理と、早く使い切ってしまいたいという心理が混在しているためです。
また、金銭的な話題になると極端に口を閉ざしたり、警戒したりする態度を見せることもあります。
変化2. 会社の人間関係を避ける
不正行為を隠している人間は、常に発覚への恐怖を抱えており、自己防衛のために孤立を選ぶ傾向があります。
以前は良好な関係だった同僚や上司との接触を意図的に避け、個人的な会話を嫌がるようになるのが具体的な兆候です。
飲み会や社内イベントへの参加を断る回数が増えることもあります。
また、自分の仕事やデスク周りに他人が近づくことを極端に警戒し、不必要に防御的な態度を取るようになります。
これは、会話の中で横領に関わる話題が出ることや、他者から行動を観察されることを恐れているためです。
変化3. 職務を他の人に任せようとしない
横領の手口が発覚することを防ぐため、不正行為を行っている者は、自分が担当する業務のブラックボックス化を進めます。
経理業務や在庫管理、特定の取引先との窓口業務など、金銭や財物に触れる職務を極端に他人に引き継いだり、チェックさせたりすることを嫌がります。
長期休暇を取る際にも、詳細な引継ぎを行おうとしません。
これは、他者が業務プロセスに入り込むと、改ざんしたデータや不審な取引記録が見つかり、不正な手口が明るみに出ることを恐れている心理的背景があるためです。
変化4. 理由もなく欠勤や遅刻が増える
横領を続けている犯人は、いつ発覚するかという精神的なプレッシャーから、心身の健康を崩しやすい傾向にあります。
特に、横領額が大きくなったり、監査が近づいたりすると、体調不良などを訴え、理由もなく急な休みや遅刻、早退が増えることがあります。
また、出勤していても集中力を欠き、ミスが増えるといったパフォーマンスの低下も見られます。
これは、ストレスや不安が限界に達し、一時的に会社から距離を置こうとしたり、精神的な不安定さがさらなる横領行為や隠蔽工作へと駆り立てたりするためです。
変化5. 急に退職や異動のそぶりを見せる
横領が発覚しそうになったり、社内の追及が始まったりすると、犯人は組織からの離脱、つまり逃亡を図る行動を見せます。
事前に何の相談もなく、突然、退職願を提出したり、まったく関連のない部署への異動を強く希望したりする動きを見せることがあります。
特に、証拠固めの動きを察知された後や、事情聴取の直前に行われるケースが多いです。
この動きは、刑事責任や民事上の責任を追及される前に、組織から離脱することを最優先しようとする心理の表れであり、横領の可能性を裏付ける非常に強いサインといえます。
【チェックリスト】横領の早期発見につながる!経理上の異常サイン
横領の兆候は、金銭や物品の流れを追う経理上の記録に、最も顕著に現れます。
経営者や経理担当者は次の異常サインに特に注意を払ってください。
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業務上横領が発覚したらやるべきこと

「会社のお金が横領されている可能性が高い」
「領収証が合わない」
「備品が頻繁になくなる」
「毎月のように商品の在庫数が合わない(棚卸減耗・棚卸差損)」
上記のように横領されている可能性が高いと判断した場合は、被害拡大を防止するためにも、早期の対処が重要です。
ここでは、横領被害が発覚したときに取るべき具体的な対処方法について、解説します。
【重要】証拠を押さえる
横領被害にあっている可能性が高いとき、最初にすべきことは証拠を押さえることです。
時間が経過すればするほど、証拠も情報も得られにくくなり、証拠隠蔽のリスクも高まります。
できるだけ早期に、かつ短期間で証拠の収集を行いましょう。
「いつ・誰が・何を・どうやって」横領をしたのかわかる範囲から調べ、「言い逃れできない強い証拠」を押さえることに取りかかってください。
まずは、防犯カメラや監視カメラの映像、経理資料、パソコンの使用履歴など、社内からアクセスできる範囲の確認から始めることをおすすめします。
証拠の獲得・横領犯の特定は探偵への相談も有効
「社内では証拠が見つからない」「横領犯の特定を急ぎたい」「社内で騒ぎにしたくない」といった場合は、探偵への相談も有効です。
探偵にできることには、次のような内容があります。
- 潜入調査
臨時社員やパート、あるいは取引先の従業員を装って社内に潜入し、横領の手口や犯人の行動を情報収集します。
- 尾行調査
横領犯と思われる人物の社外での行動を調査し、浪費の実態、金銭の受け渡し、共犯者の有無などの証拠を押さえます。
- 身辺調査
横領犯と思われる人物の素性(家族関係・交友関係・過去の経歴・趣味など)を調査し、犯行の動機を裏付けます。
- デジタルフォレンジック
許可を得たうえで、パソコンやスマートフォンから削除されたデータや不正なやり取りの履歴などを復元・解析します。
探偵の調査にかかる費用は、調査内容や期間によりますが、一般的に10万〜50万円程度が目安とされています。
証拠の獲得や横領犯の特定に加え、被害を拡大させないための防犯カメラの設置や、証拠獲得後の法的な流れについてのアドバイスも可能です。
ほとんどの探偵社はご相談とお見積りは無料で行っていますので、まずは信頼できる探偵社にご相談いただくことをおすすめします。
横領犯・関係者への事情聴取
ある程度の証拠が集まり、横領犯の特定や関係者(同僚・上司・部下・共犯と思われる人物など)の目星がついたときは、事情聴取を行います。
- 犯人が事実を認めたとき
横領したお金を返済することを約束する「支払誓約書」を記入・提出させたうえで返済請求、または損害賠償請求を行います。
- 犯人と思われる人物が事実を認めなかったとき
横領していないことを約束する「弁明書」を記入・提出してもらいます。
事情聴取を行う際には、言い逃れできない強い証拠を獲得しておく必要があります。
証拠がないままことを進めていくと、事実無根の名誉棄損として訴えられるリスクがあるため注意が必要です。
懲戒解雇
横領犯が罪を認めた場合、ほとんどの企業では懲戒解雇という最も重い処分を下します。
このときにも、有効な証拠がないまま懲戒解雇してしまうと、あとから証拠不十分として、不当解雇を訴えてくる場合もあります。
解雇処分を下す前に、弁護士と相談のうえ、証拠の確実性を確認するようにしましょう。
警察に相談
犯人が見つからないとき、また犯人と思われる人物が事実を認めなかったとき、あるいは横領犯がお金を返還しないときは、警察への相談が有効です。
業務上横領は立派な刑事事件であり、警察は被害届、または告訴状を受理したうえで捜査を行うことができます。
警察に被害届、または告訴状を提出し、捜査を求めましょう。
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横領発覚時に絶対にしてはいけないNG行動

横領が疑われる状況では、焦りから感情的な行動に出てしまうと、証拠隠滅や事態の悪化を招くリスクがあります。
証拠保全を確実に行い、法的な追及を可能にするためにも、次の3つのNG行動は、絶対に避けてください。
感情的になって独断で問い詰める
確実な証拠が揃う前に感情的になって問い詰めてしまうと、犯人に気付かれてしまい、残っているデジタルデータや書類などの証拠を隠滅される可能性や、責任追及を恐れて突然逃亡されるリスクがあります。
相手に先手を打たれ、証拠保全が非常に困難になるため、調査の専門家や弁護士に相談し、適切なタイミングと方法で対応を始めるまで、静観することが重要です。
大声で騒ぎ立てたり、社内に噂を広める
横領に関する情報は、事実が確定し、法的・懲戒的な処分が決定するまでは機密情報として厳重に管理する必要があります。
大声で騒ぎ立てたり、社内に噂話を広げたりすると、従業員の混乱を招くだけでなく、もし事実無根であった場合に横領を疑われた人物から名誉毀損で訴えられるリスクが生じます。
無許可で個人のロッカーや私物を調べる
個人のロッカーやデスクの中、私用スマートフォンなどを本人の許可なく調べる行為は、プライバシー侵害にあたる可能性が高く、会社側の違法行為と見なされる恐れがあります。
また、会社側が違法な手段で集めた証拠は裁判などで証拠能力を認められない可能性があります。
証拠収集を行う場合は、就業規則に基づいた手続きを踏むか、法的に有効な証拠収集が可能な探偵事務所などの専門家に依頼するようにしましょう。
横領の時効について

業務上横領罪の時効は原則として7年です。
7年が過ぎてしまうと、刑事事件として立件できなくなり、横領犯への処罰を求めることができません。
(参考:e-Gov「刑事訴訟法 第二章公訴 250条2項4号」)
ただし、横領されたお金の返還請求については、犯人を知ったときから3年間、もしくは横領被害があってから20年間の、どちらか早い時期が時効として採用されます。
(参考:e-Gov 「民法第724条 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効」)
時効が過ぎてしまうと、返還請求や損害賠償請求は不可能になります。
悔しい思いをしないためにも、早期の証拠獲得と犯人の特定を急ぎましょう。
【補足】横領したお金を返したら罪にならない?

犯人が横領したお金を全額返済した場合、民事上の損害賠償義務は消滅します。
ただし、会社側が被害届や告訴状を提出しているときは、刑事責任としては罪が残ります。
もしも「会社のためにも話を大きくしたくない」とお考えの場合は、条件をつけることで、会社と犯人が和解する示談交渉を行うことも可能です。
示談の条件は、全額返済・損害賠償・懲戒解雇に加え、示談金を支払うことが一般的であり、示談金は横領した金額にプラスして20万円ほどが目安になります。
示談交渉を行うためには、横領犯の自供だけでなく、確実な証拠を押さえておくことも必要です。
証拠がない場合は探偵へ、確実な証拠がつかめている場合は示談交渉に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
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まとめ|横領されたかもと感じたら探偵に相談を
横領している人には、「多額の現金が必要な状況」「横領しやすい環境」「パーソナリティの問題」
といった特徴に加え、「経理上の異常サイン」や「不自然な行動の変化」といった、具体的な兆候が見られます。
どんな理由があれど、業務上横領は立派な犯罪であり、許されるべき行為ではありません。
被害を拡大させないためにも、また真面目に頑張っている従業員のためにも、これらの兆候を見逃さずに、犯人の特定を急ぎましょう。
犯人の特定が難しいとき、また法的に有効な確実な証拠を押さえたいときは、探偵事務所に調査を依頼するのも一つの有効な手段です。
探偵事務所によっては、被害を拡大させないための監視カメラの設置や、証拠がつかめたあとの流れについてのアドバイス、また、示談交渉に強い弁護士の紹介などのサポートも行っています。
ほとんどの探偵事務所で無料相談・無料見積もりを行っていますので、まずは依頼する・しないにかかわらず、現状のご相談から始めてみてはいかがでしょうか。