採用選考でおこなわれる身辺調査とは
身辺調査とは、対象者(ここでは候補者・採用予定者)の素性や特性、現在や過去の情報などを調べる調査です。
別名「採用調査」「バックグラウンドチェック」とも呼ばれています。
身辺調査をする理由は企業によって異なるものの、一般的には次のような目的で実施されることが多いようです。
- 信頼できる誠実な人物かを知っておきたい
- 安心して良い関係を結びたい
- 即戦力となる人物がほしい
- 企業スパイ・産業スパイが紛れ込むのを避けたい
- コンプライアンス上のリスクを避けたい
企業側の視点になって考えると「真面目で誠実な人物を雇用したい」「会社の信用を落とすような人物は避けたい」と思うのは当然のことでしょう。
試験や面接、履歴書等では分からない情報を得るためにおこなう手段、それが身辺調査の目的です。
リスクマネジメントのひとつとして取り入れられていると認識しておきましょう。
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身辺調査される職業とは?公務員・大企業など職業別に解説
【公務員】警察官・自衛官
公表はされていないものの、警察官や自衛官といった公安系は厳格な身辺調査が実施されるといわれています。
言うまでもなく、警察官や自衛官は地域の安全・治安を守る仕事。
過去に犯罪や事件に絡んでいたり、反社会的勢力が関係している店でバイトをしていたなどの過去があれば、不適格者と判定されるのも致し方ないことだといえるでしょう。
【公務員】都道府県・市町村の職員
県や市町村職員は自己申告制になっていることが多いようです。
思い当たることがあれば隠さず正直に申告することをおすすめします。
仮に身辺調査が実施された場合、前科や反社会的勢力との繋がり、公安監視対象の団体に属していないかなどを調べられる可能性が高いでしょう。
地方公務員法では、公務員に不適格な人物、また受験資格がない人について「欠格条項」として定めています。
該当していないか、事前にチェックしておきましょう。
(参考文献:e-Gov「地方公務員法第16条 欠格条項 」)
【金融業界】銀行・保険会社・証券会社など
採用時に身辺調査を導入している民間企業も少なくありません。
なかでも、多額の現金や資産を扱うことが多い金融業界は高い確率で身辺調査を取り入れています。
自社に損失を与える人物をオミットするためにも、お金に関するトラブル(借金・破産歴・税金滞納・公共料金の支払い状況)がある人物の採用は見送る傾向にあるようです。
【外資系企業】外資系金投資銀行・IT系・コンサルティング業など
海外に本社がある企業、いわゆる外資系企業で身辺調査(バックグランドチェック)を実施するところが多いのは有名な話です。
というのも、海外では採用前に身辺調査をおこなうのが当たり前。
例えば、アメリカなら約95%の企業が社員・採用予定者の身辺調査を実施しています。
よって日本支社でも身辺調査をおこなうところが多く、同時にリファレンスチェック(身元調査・前職での評判などを調べる調査)の実施も増えています。
海外で身辺調査が普及しているのは、日本と比較して経歴・申告詐称が多いことが理由です。
「身辺調査が原因で不当に解雇された」と元・雇用者が訴える裁判も多く報告されています。
大手企業・上場企業・民間企業も例外ではない
公務員以外の民間の企業でも、身辺調査を取り入れているところは存在します。
特に近年では、SNSの書き込みを調査する「SNS調査」をおこなうところが増えているようです。
(参考文献:日本経済新聞「就活生「裏アカ」、増える調査依頼 過去の投稿にリスク」)
不適切な書き込みや炎上するような動画投稿をしている人は、早い段階で削除しておくことをおすすめします。
また2025年度には新しい制度「重要経済安保情報保護法」がスタートする予定であり、このことによって身辺調査をおこなう企業が増えるとみられています。
「重要経済安保情報保護法」がどのような制度なのか、次章で詳しく見ていきましょう。
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【新しい法律】重要経済安保情報保護法の対象となる職業は?
2024年5月10日に、参院本会議で「重要経済安保情報保護法(経済安保法)」が可決されたことはご存知でしょうか。
この法律は経済安全の保障・情報漏洩防止・情報保全の強化などを目的として、おもに「機密情報を扱う職業」に就業する人の身辺を調査するという法律です。
一部の規定を除き、公布から1年以内に施行される予定となっています。
【経済安保法の対象となる機密情報を扱う職業】
- 重要インフラ事業者(電気・ ガス・石油・水道・通信・鉄道・航空・港湾・郵便 など)
- 重要な物資サプライチェーンに関する事業者(半導体・永久磁石・抗菌性物質製剤・先端電子部品・蓄電池 など)
- サイバーセキュリティに関連する事業者(インターネットや高度情報通信ネットワークの整備者など)
(参考文献:内閣府「重要経済安保情報保護活用法」)
【調査される内容】
二 犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
三 情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
四 薬物の濫用及び影響に関する事項
五 精神疾患に関する事項
六 飲酒についての節度に関する事項
七 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
(引用文献:e-Gov「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律 第六章 適性評価 (行政機関の長による適性評価の実施)第十二条」)
候補者本人だけじゃなく、候補者の家族や同居人も調査の対象です。
氏名や生年月日、国籍や帰化歴、外国籍の有無や外国人との関係、さらには外貨預金や外国の不動産の保有など詳細な情報まで調査されることが決定しています。
(参考文献:e-Gov 「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律 第6章 適性評価 第12条 行政機関の長による適性評価の実施」)
経済安保法がスタートすると、今よりも身辺調査をおこなう企業は多くなると予想されます。
就活生や転職希望者は、2025年内に施行される重要経済安保情報保護活用法をチェックしておきましょう。
(参考文献:内閣府「重要経済安保情報保護活用法」
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身辺調査の調査方法とは?どこまで調べられるかも解説
身辺調査の調査方法
身辺調査には自社で調べる企業と調査会社(探偵事務所・興信所・データ調査会社)に委託する方法があり、一般的には後者を選択する企業が多めです。
調査方法は、インターネット上で公表されているデータや独自のデータを調査する方法がほとんどですが、候補者が企業スパイ・産業スパイなどの可能性があるときは尾行・張り込み・聞き込み調査を依頼する企業もあります。
身辺調査でどこまで調べられる?新卒と転職の違いは?
身辺調査で調べる範囲は企業によって異なるものの「会社に不利益を与える人物ではないか」を最重要事項にしているところがほとんどです。
- 学歴・職歴・経歴詐称
- 反社チェック
- 金銭トラブル・破産歴
- SNSの書き込み(誹謗中傷・差別・炎上など)
- 前科や訴訟を起こされた過去はないか
- 前職でトラブルを起こしていないか、勤務態度はどうだったか
- 企業スパイ・産業スパイの可能性
新卒者よりも、転職者のほうが身辺調査の項目が多めです。
前職で遅刻や無断欠勤が多かった人、また顧客とのトラブルや横領などに関わったことがある人は、次章「身辺調査で内定取り消しになることはある?」もあわせてチェックしてみてください。
身辺調査で内定取り消しになることはある?
企業が候補者の実態を適切な方法で調べることは禁止されていません。
ただし、厚生労働省では採用時に配慮すべき内容について次のように定めています。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条などに関すること
・尊敬する人物に関すること ・思想に関すること
・労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること <c.採用選考の方法>
・身元調査などの実施 (注:「現住所の略図等を提出させること」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
・本人の適性
・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
(引用文献:厚生労働省「公正な採用選考の基本」)
本人に責任や関係がないこと、業務に無関係な調査をおこなうこと、そして上記内容を面接のときに尋ねたり、エントリーシートへの記入を強いたりすることは禁止です。
逆に考えると、上記内容以外が発覚したときには内定取り消しになることがあります。
- 内定後に犯罪行為があった
- 内定後に問題・トラブルを起こした(人間関係・金銭的)
- 前職で大きなトラブルや不正行為があったことが判明した
- 前職で遅刻や無断欠席を繰り返していたことが分かった
- 多額の借金があることが判明した
- 反社会的勢力との関わり・繋がりがあった
身辺調査が原因で内定取り消しになったと思ったときは、企業側に事実確認と説明する機会を求めることをおすすめします。