どこからが結婚詐欺?意外と難しい詐欺罪の成立要件を解説
そもそも結婚詐欺とは
結婚詐欺とは、相手と結婚するつもりがないのに結婚の意思があるよう装い金銭を騙し取る行為を指します。
具体的には、結婚の日取りを決めたり、一緒に結婚式場を見に行ったり、両親に挨拶したりなどの行為のあとに「お金が必要になった」「結婚資金の一部を自分に預けてほしい」「いい投資話がある」などのセリフで金銭を奪い取るような行為のこと。
マッチングアプリで知り合った外国人から金銭を騙し取られる「国際ロマンス詐欺」も結婚詐欺のひとつに数えられています。
(参考資料:警視庁「SNS型ロマンス詐欺」)
詐欺罪の罰則
詐欺行為をおこなうとどのような罰を与えられるのか、刑法第246条「詐欺」を確認してみましょう。
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(参考資料:e-Gov「刑法第246条 詐欺」)
詐欺罪は最大で10年以下の懲役になり、詐欺に加担した人にも同様の罰を与えられます。
罰金刑がなく懲役刑のみになるため、悪質な犯罪に位置付けられていると考えてよいでしょう。
意外と難しい結婚詐欺の成立要件
結婚詐欺=詐欺罪を成立させるには「加害者の欺罔(ぎもう)行為」「被害者の錯誤(さくご)」「被害者による交付行為」「財産の移転」の4つの要件を満たす必要があります。
- 加害者の欺罔行為…加害者が被害者を騙す行為
- 被害者の錯誤…被害者の認識と事実が異なること
- 被害者による交付行為…被害者が加害者に金銭・財産を渡したこと
- 財産の移転…被害者の交付により、金銭・財産の所有権が加害者に移転したこと
まとめると『相手を騙して誤解させ、相手が自ら差し出したものを自分のものにする』という行為が詐欺罪の成立要件。
4つの行為が揃ってはじめて詐欺罪が成立し、ひとつでも欠けると詐欺罪として成立しないということになります。
(参考資料:e-GOV「刑法第246条 詐欺罪」)
似たような犯罪に、被害者の意思に反して金銭や物を奪い取る「窃盗罪」、預かったお金を勝手に使う、また貴金属を勝手に売り払うなどの「横領罪」があります。
他人事ではない!実際にあった結婚詐欺の事例と判例
きっと多くの人は「自分は結婚詐欺には引っかからない」「騙されない自信がある」と思っていることでしょう。
しかし「結婚したい」という相手の気持ちを上手に操るのが結婚詐欺師の手口。
どのような手口で金銭を騙し取るのか、実際に起こった結婚詐欺事件の事例を判例とともに見ていきましょう。
複数人の女性から5000万円を騙し取った結婚詐欺事件
2023年7月10日、福岡地裁で3件の詐欺の罪に問われた51歳の男に懲役3年2カ月の判決が言い渡された。
この男は全国の女性たちに結婚詐欺を繰り返し、金をだましとっていた人物だった。
(中略)起訴状などによると、前田被告は2022年11月に職業や名前を偽って交際していた埼玉県の女性に対して「銀行口座が不正利用されて凍結された」「必ず返す」などと嘘を言って合わせて380万円をだまし取ったとされている。
(中略)前田被告は「前田」のほか「正木」「樫木」「神崎」「松本」などいくつもの偽名も使い1都2府11県に出没。被害総額は5,000万円を超えているという。
(引用元:FNNプライムオンライン「「愛してる、誰よりもね」その言葉を最後に…“息をするように人をだませる”詐欺罪に問われた51歳の男に判決」)
複数人の女性から合計約5000万円を騙し取った悪質な詐欺ながらも、判決は懲役3年2カ月。
刑罰が軽く、また詐欺に気付いた被害女性の1人が警察に被害届を出そうとしたものの「男女間の金の貸し借り」などの理由で受理されなかったことからも注目を浴びました。
女性2人が共謀し男性から2900万円を騙し取った結婚詐欺事件
結婚相談所の会員の男性(66)から現金を詐取したとして、詐欺罪に問われた船橋市薬円台の無職、清埜弘子被告(52)の判決公判が21日、千葉地裁八日市場支部で開かれ、建石直子裁判官は「手口が非常に巧妙で悪質。共犯者と役割を分担し、主導的立場だった」として懲役2年(求刑懲役4年)を言い渡した。
判決によると、清埜被告は別の女(51)同罪で懲役2年、執行猶予4年の1審判決=と共謀。
男性がこの女と結婚できると信じていることにつけこみ、計2900万円をだまし取った。
(引用元:産経新聞「結婚詐欺主犯の女に懲役2年の実刑判決 千葉」)
こちらは男性が約2900万円を騙し取られたケース。
加害女性の一人は懲役2年の実刑になりましたが、共謀した女性は執行猶予判決に終わっています。
「頂き女子」に懲役9年、罰金800万円
「頂き女子りりちゃん」を名乗って恋愛詐欺のマニュアルを販売し、自身も男性の好意につけ込み計約1億5500万円をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われた渡辺真衣被告(25)に名古屋地裁は22日、懲役9年、罰金800万円の判決を言い渡した。
求刑は懲役13年、罰金1200万円だった。(中略)判決によると、2021年3月〜23年8月、50代の男性に借金返済の金が必要といったうそを言い約1億1700万円を、23年4〜8月には別の男性に同様のうそをつくなどして約3800万円を詐取するなどした。
被告は他に、別の女=詐欺罪で有罪確定=に対し、恋愛感情を利用して金をだまし取るためのマニュアル「頂き女子の参考書」などを販売して手助けした詐欺ほう助罪、男性からだまし取った金を隠して所得税約4千万円を脱税した所得税法違反の罪にも問われた。
(引用元:日本経済新聞「「頂き女子」に懲役9年、罰金800万円 名古屋地裁判決」)
SNSを中心に有名になった「頂き女子りりちゃん」の恋愛詐欺事件。複数の男性から約1億5000万円以上を騙し取った詐欺罪、そして詐欺マニュアルを販売した詐欺ほう助罪、さらに所得税を脱税した所得税法違反の罪に問われ、懲役9年罰金800万円の判決が言い渡されました。
詐欺罪は最大懲役10年に処せられる重罪ながらも、実際は複数の罪を重ねなければ懲役3年以下の判決を受けることがほとんど。
被害者側からすると耐え難い判決であり、「詐欺罪の刑罰は軽いのではないか」と疑問視する人も多いようです。
結婚詐欺の立件は難しい?警察が動かない事例
金額がいくらであれ、結婚詐欺被害を疑ったときは警察に相談するのがおすすめです。
しかし、詐欺罪は立証するのが非常に難しい犯罪のひとつ。
案件によっては警察が「動かない」または「動けない」こともあります。
どんなときに警察が動かない、または動けないのか具体的なケースを見ていきましょう。
「債務不履行」になるケース
前述したように、結婚詐欺は『相手を騙して誤解させ、相手が自ら差し出したものを自分のものにする』という行為のこと。
しかし、相手が『お金を借りたことは事実だが、返済する意思があった』と訴えれば、刑事事件の「詐欺財」ではなく、民事事件の「債務不履行」になる可能性があります。
(参考資料:e-GOV「民法第415条 債務不履行による損害賠償 」)
もちろん詐欺のつもりで金銭を奪っておきながら、結婚詐欺と訴えられたことで「絶対に返すつもりだった」と主張するケースもあるでしょう。
債務不履行ではなく詐欺罪として立件したいときは、相手に返済能力がないことを示す証拠が必要になります。
詳しくは後述する「結婚詐欺は証拠が重要!被害に遭ったときの対処方法」を参考にされてください。
「少額詐欺」「寸借詐欺」のケース
被害に遭った額が少額、具体的には数千円から1〜2万円程度だった場合、警察として刑事事件化させるのが難しい案件になります。
警察に相談し被害届を提出することはできるものの、捜査の進捗が見られなかったり、示談するよう促されたりなど泣き寝入りせざるを得ないケースも多いようです。
男女間の問題として処理されることも
前章で紹介した【被害総額5000万円で懲役3年2カ月】の詐欺事件では、詐欺に気づいた女性が警察に被害届を出そうとしたところ「男女間の金の貸し借り」と見なされ受理されなかったことが判明しています。
結婚詐欺を立件するのは意外と難しく、被害者は「騙されたことを証明する証拠」と「相手に返す意思がなかった証拠」をどれだけ用意できるかが重点になってくるでしょう。
こちらもチェック
結婚詐欺は証拠が重要!被害に遭ったときの対処方法
証拠を準備する
結婚詐欺を詐欺罪として立件するには「相手が結婚する意思を見せたこと」「騙されてお金を渡したこと」「相手に返す意思がなかったこと」を証明する必要があります。
- 通帳や取引明細書など金銭を渡した(経済的損害を負った)証拠
- お金を要求された・渡したことを示すLINE・DМ・メール
- 結婚式場に下見に行ったときの予約記録や写真
- 両親に挨拶をしたときの写真
- 相手に返済能力がないことを示すもの
証拠が不十分だと警察に対応してもらえないこともあります。念には念を入れ、複数の証拠を準備しておきましょう。
証拠が揃わないときは探偵に相談を
証拠が不十分なときは、詐欺問題を扱っている探偵に相談してみましょう。
調査のプロ・探偵であれば、尾行・張り込み・聞き込み・独自のデータ分析など、さまざまな調査で詐欺師の素性や経歴、普段の行動や収入面など幅広い情報を集めることが可能です。
さらに集められた情報は、警察や裁判での重要証拠として利用することもできます。
どこまで調べるかによって調査費用は異なりますが、おおよその相場は10〜50万円程度。
多くの探偵事務所で無料相談・無料見積もりをおこなっていますので、まずは相談するところからはじめてみましょう。
探偵事務所では、結婚相手の素性や信頼度を調査する「身辺調査(結婚調査)」もおこなっています。
「結婚前に相手のことを詳しく知っておきたい」「婚約者がなんとなく怪しい…」と感じたときは気軽に相談してみましょう。
国民生活センター・消費者センターに相談する
国が運営している国民生活センター、または地方公共団体が運営している消費者センターは、詐欺被害に遭った人にどう動くべきかアドバイスをしてくれる機関です。
また、裁判をせずに解決したいときの「裁判外紛争解決手続(ADR)」の実施、トラブル等の未然防止・拡大防止に関する注意喚起もおこなっています。
相談事例や紛争解決事例もホームページ内で閲覧できますので、どのような相談が寄せられているか、どうやって解決したのか、一度目を通してみることをおすすめします。 参考資料:「国民生活センター」、「全国の消費生活センター等」
警察署・交番に相談する
相手を詐欺師として逮捕してもらいたいときは、最寄りの警察署・交番で相談し、告訴状を提出しましょう。
このときに重要になるのが、前述した「詐欺被害に遭ったことが証明できる証拠」です。
証拠が揃っていないと警察は動かない(対応できない)ことがあるため注意しましょう。
弁護士に相談する
警察は詐欺師を逮捕することは可能ですが、加害者が騙し取ったお金の返金手続きまではおこなわないことがほとんどです。
お金を取り戻したいとき、また警察の対応が不十分だと感じたときは法律のプロ・弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談・依頼すると、加害者への返金交渉やお金を取り戻すためのアドバイス、また裁判を起こすときの準備やサポートなど、幅広くサポートしてもらうことが可能です。
弁護士費用の相場は50〜200万円程度。まずは無料相談会を利用し、お金を取り戻すことは可能か、弁護士費用はいくらかかるかなど、気になることを相談してみましょう。