脅迫状の定義や成立要件とは?脅迫にならないケースも解説
脅迫状の送付は刑罰の対象になる?
脅迫状の文面に、送った相手や家族の生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える言葉(害悪の告知)があったときは刑法第222条「脅迫」に該当します。
(脅迫) 第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
参考元:e-Gov 刑法「脅迫」
脅迫罪に該当した場合、送り主は2年以下の懲役刑、または30万円以下の罰金刑に処せられます。
脅迫罪の時効は、脅迫行為をおこなった日を起算として3年(刑事訴訟法250条2項6号)。
送り主の処罰を希望するときは、脅迫状を受け取ったときから3年以内に警察に告訴状を提出する必要があります。
手紙やハガキだけでなく、LINEやメール、DМで害悪の告知をした場合も刑罰の対象になります。
脅迫罪になる言葉・ならない言葉
脅迫状や怪文書の文面に「生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える告知(害悪の告知)」があったときは脅迫罪に該当しますが、抽象的な表現しかなかった場合は脅迫罪に該当しないことがあります。
参考までに脅迫罪になる言葉とならない言葉を見ていきましょう。
【脅迫罪になる言葉】
- 生命に対する害悪の告知…殺してやる・二度と歩けなくしてやる・家族がどうなっても知らないぞ・夜道に気をつけろよ・遺書(遺言書)を書いておけよ など
- 自由に対する害悪の告知…子どもを誘拐してやる・ここから出られると思うな など
- 名誉に対する害悪の告知…(写真や動画を)拡散してやる・晒してやる・お前の会社にお前がした悪事を言いふらしてやる など
- 財産に対する害悪の告知…家に火をつけてやる・ペットを殺してやる・車をボコボコにしてやる など
【脅迫罪にならない言葉】
- 一生恨んでやる
- いつか後悔させてやる
- 警察に通報するぞ
- 弁護士に相談します
- 訴えてやる
- 開示請求します
- お前の恋人を殺してやる
抽象的で具体性に欠ける言葉や実現不可能な言葉、また正当な権利の行使として発した言葉も脅迫罪には該当しません。
また、脅迫罪の対象になる範囲は本人とその家族のみになりますので、恋人や友達を対象にしている場合も脅迫罪が成立しないことになります。
ただし、次のようなときは例外です。
- 呪ってやる…一般的には脅迫罪にはならないものの、宗教関係者などが信仰者に対して「呪ってやる」「地獄に落とす」などの脅迫状を送ったときには罪になることがあります
- 自殺してやる…こちらも脅迫罪にはなりにくい言葉ですが、「お前を殺して俺も自殺する」と書いてあれば脅迫罪になる可能性が高くなります。
脅迫罪に該当するのか否か分からないとき、また文面に不安をあおるような文章があるときは、記事後半で紹介する相談窓口への相談を検討しましょう。
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脅迫罪が成立した事例
実際に脅迫状を送りつけた加害者が逮捕された事件・事例を紹介します。
任天堂の役員に脅しの文書を送りつけたとして、京都府警は9日、東京都三鷹市、電力関係会社契約社員の女(36)を脅迫容疑で逮捕した。
容疑を認めている。 発表では、女は昨年6月25日、京都市内から、任天堂の役員に対し、「殺してさしあげますわ」などとする文書を送りつけて脅迫した疑い。
犯行予告日を示し、香典袋も添えていたという。
引用元:読売新聞オンライン「「殺してさしあげますわ」任天堂の役員に脅し文書、36歳の女逮捕…香典袋も添える」
こちらは2022年に任天堂の役員宛に脅迫状が送られてきた事件です。
翌年に脅迫容疑で女性が逮捕され、その後の捜査により2022年の6月〜8月にかけて複数の脅迫状を送っていたことが分かり再逮捕されています。
メッセージアプリ「LINE」で「絶対お前のこと殺すからね」などと複数回脅迫メッセージを送信し、相手の女性を脅したとして、タクシー運転手の男が17日、米子警察署に逮捕されました。
脅迫の疑いで逮捕されたのは、鳥取県米子市に住むタクシー運転手の男(27)です。
警察によりますと、男は11月15日午後11時20分ごろから23分ごろまでの間、鳥取県西部地区に住む10代の女性に対し、スマホのメッセージアプリ「LINE」で、「絶対にお前のこと殺すからね」などといった脅迫メッセージを複数回送信し、脅迫した疑いが持たれています。
引用元:山陰放送「絶対お前のこと殺すからね」SNSで知り合った10代の女性に複数回脅迫メッセージ送信 タクシー運転手の男(27)を逮捕
こちらは2023年に起こった脅迫事件。
20代男性が10代女性にLINEで害悪の告知をしたとして逮捕に至っています。
ネット上で「脅迫だけでは警察は動かない」という話を目にしたことがある人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
脅迫状が届いたとき、またLINEやメール、DМなどで害悪の告知を受けたときは、警察、または適切な窓口に相談することを強くおすすめします。
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脅迫状が届いたらどうする?対処方法と相談窓口を解説
脅迫状を保管する
封書やハガキで脅迫状が送られてきたら、破棄せずに証拠として保管しておきましょう
- できるだけ自分以外の指紋や汚れがつかないよう注意する
- 複数枚コピーをとっておく
- クリアファイルやジップロックなどに入れて保管する
- 誰にも見せない、言わない
- 加害者が知人である可能性を視野に入れる
同様に、LINEやDМ、メール等で脅迫メッセージが送られてきたときの対処方法も紹介しておきます。
- 送られてきたメッセージ・送られてきた日時を画面をスクショする
- 念のため画面を印刷し、コピーを複数枚取っておく
- 送り主のID・アカウント名をメモに残しておく
脅迫状は、脅迫されたことを証明する大事な証拠です。
今後必要になってきますので、できるだけきれいな状態で保管しておきましょう。
警察署に相談する
「脅迫状が届いたが、どうしていいのか分からない」「脅迫してきた相手を逮捕してほしい」というときは警察に相談し、必要に応じて被害届や告訴状を提出しましょう。
直接出向くのが難しいときは、警察相談専用窓口「#9110」、または居住地近くにある警察署に電話し、対処方法やアドバイスをしてもらうのもおすすめです。
ただし、脅迫状の文面に害悪の告知が無い場合は被害届や告訴状が受理されないこともあるため注意しましょう。
(参考元:政府広報オンライン「警察に対する相談は警察相談専用電話 「#9110」番へ」
弁護士に相談する
「警察沙汰にはしたくない」「警察に相談したが動いてくれない」「示談したい」「慰謝料を請求したい」というときは、弁護士事務所に相談してみましょう。
弁護士にできることには次のようなものがあります。
- 穏便に解決するためのアドバイス
- 示談金の交渉・慰謝料の請求
- 開示請求申請
- 警察への同行
- 裁判の手続き など
弁護士費用の目安は50〜100万円程度です。
ほとんどの弁護士事務所で無料相談会の実施、または初回相談無料キャンペーンをおこなっていますので、まずは話だけでも聞いてもらうことをおすすめします。
探偵事務所
「脅迫状を送ってきた犯人が分からない」「脅迫してきた人物を特定したい」というときは探偵事務所に相談するのがおすすめです。
探偵ができることには次のようなものがあります。
- 依頼者へのヒアリングにより、脅迫状を送ってきた人物を推測
- 指紋鑑定
- 筆跡鑑定
- 独自のデータベースやネットワークを使った調査
- 加害者への尾行・張り込み
- 加害者周囲への聞き込み
- 警察署への同行
- 弁護士の紹介
- 再発防止に向けた取り組み
探偵には特別な法律「探偵業法」が適用されているため、一般的には調べられないような内容についても調査をおこなうことが可能です。
探偵の調査費用の相場は10〜80万円程度になりますが、ほとんどの探偵事務所では相談・見積もりだけであれば無料でおこなっています。
まとめ
文書やメール、LINEやDMなどで脅迫状や怪文書が届いたら適切に対応することが重要です。
まずは文面に「害悪の告知」があるか確認し、ある場合は速やかに警察に相談し被害届や告訴状を提出することをおすすめします。
また、示談金や慰謝料を請求したいときは弁護士に、脅迫状を送ってきた犯人を特定したいときは探偵に相談するのが有効です。
冒頭でお伝えした通り、脅迫状を送ってくる人物はあなたに敵意や悪意を持っている可能性があります。
「ただの脅しだろう」などと軽視していると、思わぬ事態に発展することがあるため注意が必要です。
一人だけで悩まず、またスムーズに解決するためにも、できるだけ早く警察や弁護士、探偵など専門家にサポートを求めることをおすすめします。