【前提】人工妊娠中絶の期間・費用・注意点
まずは中絶手術を受けるまでの一般的な流れを確認しておきましょう。
妊娠11週6日目までは「初期中絶」
初期中絶手術は、都道府県医師会が審査・指名している「母体保護法指定医」がいる医療機関でおこないます。
トングやスプーンのような器具で子宮内膜を掻き出す「ソウハ法(掻爬法)」、またはストロー状の細長い器具を使う「吸引法(MVA)」という手術になり、どちらも処置時間5〜20分程度の日帰り手術。
費用は10〜15万円程度です。
術後は死産届も埋葬も必要ありません。
妊娠12週1日目~妊娠21週6日目は「中期中絶」
中期中絶手術は、都道府県医師会が審査・指名した「母体保護法指定医」が在籍、かつ「入院設備が整っている医療機関」でおこないます。
人工的に陣痛を起こし流産させる手術方法になるため、入院期間は2〜4日ほど。
費用は週数・曜日・医療機関の料金体系によって異なり、相場は30〜80万円程度になります(出産育児一時金の制度の対象です)
母体保護法により人口死産と分類されるため、死産届の提出と埋葬が必要になります。
中絶手術を受ける際の注意点
中絶手術が受けられるのは、妊娠21週6日目まで。
母体保護法によって妊娠22週以降の中絶手術は禁じられているため、まずは病院にて妊娠週数の確認をおこないましょう。
初期・中期のいずれにせよ、中絶手術を受ける際には本人の身分証明書(保険証・マイナンバーカード・免許証)と、原則として本人・パートナーの両人が自筆署名した「人工中絶手術同意書」が必要になります。
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中絶の際は「人工妊娠中絶の同意書」の記入が必要
中絶手術を受けるときには「人工妊娠中絶の同意書」の記入・提出が必要です。
人工妊娠中絶手術の同意書とは、中絶手術の方法やリスクに同意の意思を表明する書類のこと。
中絶を申し込んだ際に病院から渡される書類のひとつになり、医師からの手術の説明に納得したうえで中絶することを表明するために必要な書類となっています。
【人工妊娠中絶の同意書の内容】
- 人工妊娠中絶手術の概要に同意・表明する旨の文
- 手術を受ける本人の署名・捺印・連絡先欄
- 相手(配偶者・彼氏など)の署名・捺印・連絡先欄
- 未成年が手術を受ける場合は、保護者の署名・捺印・連絡先欄
形式は医療機関によって異なります。
病院によってはホームページからダウンロード可能なところもあるようです。
【原則】既婚者が中絶手術をする際は配偶者の同意が必要
母体保護法では、中絶手術において次のように定めています。
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。 (引用元:e-GOV法令検索「母体保護法第14条」)
要するに「既婚者が配偶者の同意なしで中絶ができるケース」は下記のような事例であると考えられます。
- 配偶者が知れないとき…所在が分からない、長期間音信不通、連絡が取れない、行方不明など、配偶者の居場所や生死が分からないとき
- 妊娠後、配偶者が亡くなったとき
- 配偶者が意思表示ができないとき…病気や事故などで判断能力や責任能力がないとき
中絶手術を受ける本人が独身者である場合、「相手が誰だか分からない」「相手が逃げた」「性被害で妊娠した」というときは本人のみの同意で手術が可能です。
しかし手術を受ける本人が既婚者の場合、上記と同じ理由で妊娠したとしても原則として夫の同意が必要になります。
その理由は、手術中、または術後に重要なトラブルが起こった際、配偶者が「自分は同意していない」「既婚者なのに本人の同意だけで中絶をするのは母体保護法違反ではないのか」などと主張し、医療機関側に損害賠償責任が発生する恐れがあるからです。
手術を受ける人が既婚者のときは、例えお腹の子が不倫相手の子どもだとしても原則として配偶者の同意が必要になるため注意しておきましょう。
配偶者同意欄を自分で書く・代筆するのは違法行為
「旦那にバレたくない」「親にバレたくない」などの理由から、配偶者や保護者の同意欄に自分で署名するのは違法行為に該当します。
もちろん、第三者に頼んで記入してもらうのも違法行為です。
代筆する行為は「有印私文書偽造罪」に、書類を医療機関に提出する行為は「有印偽造私文書行使等罪」になり、いずれも法定刑は3カ月以上5年以下の懲役刑。
自分で書く、または代筆を依頼・引き受ける行為はやめるようご注意ください。
産院によってルールが異なることも
医療機関のなかには、配偶者の同意がなくとも中絶手術をおこなうところもあるようです。
- 心身的・経済的に子どもを持つのが困難であるにもかかわらず、配偶者が中絶手術に同意しないとき
- 多産DV(妻が望んでいないのに夫が避妊せず、妊娠・出産を繰り繰り返す行為)の可能性があるとき
- その他の理由(夫の性暴力による妊娠や、夫以外の子を妊娠した可能性が高いときなど)
このあたりのルールは医療機関によって異なり、要相談となります。
悩んだときは手術を受ける予定の病院・産院に「予期せぬ妊娠」であることを相談してみましょう。
(参考文献:読売新聞オンライン「妻が第三者から性暴力、中絶に夫の同意必要か…告白にためらい・同意なし手術の例も」)
黙って中絶をするのは「堕胎罪」に該当することも
中絶を検討している人の中には「相手の同意なしに中絶するのは罪になるのか」と不安に思っている人もいらっしゃることでしょう。
中絶が罪になるのは、先ほど紹介した「母体保護法第14条 医師の認定による人工妊娠中絶」に当てはまらないとき、かつ「刑法第二十九章 堕胎の罪(刑法212~215条)」に該当するときになります。
(堕胎罪) 刑法212条・自己堕胎罪 妊娠中の女性が薬物、またはその他の方法によって自分で中絶をおこなったとき。
法定刑は1年以下の懲役。 刑法213条・同意堕胎罪 妊娠中の女性に頼まれて、または妊娠中の女性の承諾を得て、第三者の手によって中絶がおこなわれたとき。
法定刑は2年以下の懲役。 刑法214条・業務上堕胎罪 妊娠中の女性に頼まれて、または妊娠中の女性の承諾を得て、医師・助産師・薬剤師などが中絶をおこなったとき。
法定刑は3月以上5年以下の懲役。※母体保護法に基づいた人工妊娠中絶手術である場合、この罪は成立しません 刑法215条・不同意堕胎罪 妊娠中の女性の断りなく、妊娠中の女性以外の第三者が中絶手術をした、または暴力や薬物等によって中絶させたとき。
法定刑は6月以上7年以下の懲役。 (参考文献:e-GOV法令検索「堕胎罪」)
繰り返しますが、既婚者が中絶手術を受ける際には原則として配偶者の同意が必要です。
よって配偶者の同意なしで中絶すると、刑法214条・業務上堕胎罪に問われる可能性があることを認識しておいたほうがいいでしょう。
中絶手術をしたら旦那にバレる?良くある事例を紹介
旦那にバレないよう、慎重に中絶手術まで手順を踏んだとしても、ふとしたタイミングでバレてしまうことは珍しくありません。
どんなときにバレてしまうのか、良くある事例を紹介します。
【中絶したことが旦那にバレた事例】
- 医療機関(産婦人科)にいたところを旦那の友達・知人に目撃された
- 医療機関の診療明細書・領収証を旦那に見られた
- 夫が探偵に妻の浮気調査を依頼していた
- 健康保険組合から送られてきた医療費通知(医療費のお知らせ)に産婦人科の受診履歴があり、旦那に受診理由を説明するよう詰め寄られた
- 手術中に大きなトラブルが発生し、医療機関が旦那や家族に連絡をした
中絶手術をしても、身体に傷が残ることはほとんどありません。
また医療機関にも「第三者に患者の情報を漏らさない」という守秘義務があるため、通常であれば他人に中絶手術を受けたことがバレることはないでしょう。
しかし、ふとしたことで配偶者にバレてしまう恐れも十分に考えられます。
バレない確率=100%ではないことは覚悟しておきましょう。
予期せぬ妊娠に悩んだときの相談窓口
予期せぬ妊娠や望まない妊娠で悩んだときは、医療機関だけでなく「一般社団法人 全国妊娠SOSネットワーク」に相談するのもおすすめです。
全国妊娠SOSネットワークでは「お金がなくて育てられない」「お金がなくて中絶できない」「誰にも相談できない」など幅広い悩み・問題に対応し、適切なアドバイスや解決策の提案をおこなっています。
全国各地に支部が開設されていますので、まずはホームページから居住地近くのSОS相談窓口を確認してみましょう。
(参考元:一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク)
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