親権を持つということ
まずはじめに、親権を持つということがどういうことなのか、基本的な情報を確認しておきましょう。
親権とは何の権利なのか
親権とは「子どもが成人になるまで育てる親の権利」のこと。
実際は親の「義務」であり「責任」と考えたほうがよいでしょう。
また親権には「身上監護権」と「財産管理権」があり、一般的に2つの権利を合わせて「親権」と呼んでいます。
【身上監護権とは】
身上監護権とは、子どもを保護する義務のこと。
一般的に「養育権」とも呼ばれ、食事やしつけ、社会のルールなどを一緒に生活しながら、また見守りながら精神的・肉体的に育てていく権利のことを指します。
【財産管理権とは】
財産管理権とは、子どもの財産(お金・預貯金・相続した遺産など)を管理する権利・義務のこと。
また、法律行為(売買・労働契約など)を管理するのも財産管理権のひとつになります。
例えば、子どもが親の同意なく高額な買い物をしたときには、財産管理権に基づいて親が取り消すことができるなど、財産・法律に関する事項を管理することができます。
親権は身上監護権と財産管理権の双方を持つことが理想です。
しかしどちらが親権を持つか揉めたときには、財産管理権を持つ「親権者」と、身上監護権を持つ「監護者」に分けることも可能です。
父親が親権を持ち、母親が育てるという形も、夫婦間で合意があれば法的な問題はありません。
親権はどうやって決めるのか
親権の決定方法は「協議」「調停」「裁判」のいずれかになります。
- 協議…夫婦間の話し合い
- 調停…協議で決まらなかった場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停員に間に入ってもらって協議する
- 裁判…調停でお互いの合意が得られなかった場合は家庭裁判所に親権を決めてもらう
調停・裁判では、調停委員や裁判官が「子どもは父親と母親のどちらと暮らしたほうが幸せか」という観点から判断をしていきます。
【親権争いは母親のほうが有利】
調停や裁判へと進んだ場合は、母親のほうが断然有利になります。
実際に令和5年の司法統計年報を見てみると、母親が親権を獲得した割合はなんと約90%。
(参考元:令和5年司法統計年報「家事編」)
父親が親権を持つことが難しい理由には、家庭裁判所の判断基準「母性優先の原則」「現状維持の優先の原則」「兄弟姉妹不分離の原則」が関係していると考えられます。
- 母性優先の原則…
生理学上、幼い子ども(小学生頃まで)は母親と一緒に暮らすことが望ましいとされる福祉的な考え方。
- 現状維持優先の原則…
多くの家庭が父親よりも母親のほうが子どもと一緒に過ごしてきた時間が長いため、今後も継続して母親と暮らし続けることが望ましいという一般原則。母親と一緒に過ごすことが多かった子どもは、父親よりも母親と暮らすことを希望するケースが多いようです。
ほかにも「兄弟姉妹不分離の原則」「虐待の有無」「寛容性の原則(フレンドリー・ペアレント・ルール)」
などの考慮されるポイントはいくつかあるものの、「母子優先の原則」「現状維持優先の原則」は母親が断然有利になるため、母親が親権を持つケースが多くなるということです。
子どもの意思(どちらと暮らしたいかという希望)が尊重されるのは15歳以上とされていますが、本人の強い希望があれば15歳未満の子どもでも尊重されます。
経済的な面では父親のほうが安定していても、父親が母親に養育費を渡すことで生活費や教育費はカバーできるという考え方が一般的です。
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母親が親権を取れない事例とは?父親が親権を取った事例も紹介
母親が親権を取れない事例
一般的に親権は母親が持つ確率が高めですが、母親ではなく父親が親権を持つパターンもあります。
- 話し合いの末、母親が親権を父親に譲った
- 母親が虐待・育児放棄(ネグレクト)していた
- 父親のほうが子どもと過ごす時間が長かった
- 母親が子どもを置いて出ていった
- 子どもが父親と暮らしたがっている
- 母親が肉体的・精神的な疾患を持っていて育児ができない
- 母親が父親に無断で子どもを連れ去った
母親が親権を取れないケースには上記のようなものがあります。
では、実際にどのような判例があるのか、次章で詳しく見ていきましょう。
父親が親権を持った実際の事例・体験談
自身の母を介護するため、自分の実家に住むようになった母親。
週末になると父親と子どもが母親の実家に顔を出すという週末婚スタイルで生活していたが、そのうち父親が週末婚を拒むようになり、最終的には離婚。
子供たちは父親と祖母と暮らしていたため、親権はそのまま父親が獲得した。
参考文献:BBC NEWS JAPAN「「元配偶者に子供を取られた」……日本で離婚後の共同親権導入へ」
上記は母親の都合で別居になり、そのまま離婚に至ったケース。
母親は「自分の親の介護」という真っ当な理由で自宅を留守にしていたものの、結局は離婚に至ってしまいました。
子どもたちは父親と祖母と暮らしていたことから現状維持優先の原則が適用され、親権が父親となりました。
妻が子どもを連れ出し、別居婚が開始。
父親の訴えにより、平日は父親のもとで、週末は母親のもと(母の実家)で暮らすという生活になったが、突如として母親が代理人弁護士をたて「今後子どもとの一切の接触を禁ずる」と父親に通告。
父親も代理人弁護士をたて、家庭裁判所に「監護者指定・子の引き渡し審判および審判前の保全処分」の申し立てをおこなう。
争いの間に妻の持病が悪化し入院。
子供の面倒は妻側の祖母がおこなうことになった。
調停を経て、裁判により父親が親権を獲得。
参考文献:親子ネット「「子どもを連れ去られ8カ月後に取り返した父親の話」ぽんた(仮名)」
子どもの連れ去りは、例え相手が配偶者(元配偶者)であっても、未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)に該当することがあります。
上記のケースはまさにそれにあたり、かつ妻の持病の悪化により父親に親権が渡されたようです。
当初は母親が親権を持ったものの、子どもの強い希望で父親に変更。
父親と暮らすようになって、不登校気味だった子どもが元気に学校に通うようになった。
参考文献:PRESIDENT Online「「母から父へ親権を変更」浪費夫と喧嘩が絶えなかった元妻が「離婚して家族が幸せになった」と断言するワケ」
上記は、子どもの希望により母親が父親に親権を譲ったケース。
いったん母親に親権を取られたとしても、事情があれば親権を父親に変えることが可能です。
逆に考えると、父親が親権を獲得しても、子どもが母親と暮らすことを望んだり、また育児環境が悪かったりした場合は母親に親権が移されることがあると認識しておきましょう。
離婚当初は母親が親権を獲得。
母親側が何かと理由をつけて父親との面会を1年以上おこなわず、子どもが元気にしているか知りたいと思った父親が探偵に調査を依頼。
探偵の調査により、母親には新しい恋人がいること、そしてその恋人が子どもに虐待していたことが確認された。
親権者変更調停を経て、父親に親権変更。
参考文献:Diamond Online「「生き別れになった息子を救いたい!」探偵が心を痛めた 、元妻の呪縛と戦う父の一念」
こちらも母親から父親へと親権が変わったケース。
母親の恋人が子どもに虐待をしており、その証拠が押さえられたことがカギとなったようです。
母親が親権を渡すことを拒んだ場合、親権者変更調停を申し立てると調停委員と調停官(裁判官)が間に入り親権者の変更について協議を進めてくれます。
調停・裁判へと進んだ場合、「父親と暮らすほうが子どもが幸せである」ことを積極的に交渉する必要があります。
その際にどんなことを意識すべきなのか、次章で詳しく見ていきましょう。
父親が親権を持つ方法は?交渉ポイントを解説
交渉ポイント1. 日常的にお世話をしていることをアピール
前述した通り、調停や裁判では親権を決めるときに「母性優先の原則」や「現状維持優先の原則」を重要視します。
これは、特に子どもが小さい時期は、慣れ親しんだ環境、かつ日常的に保護・教育される環境が望ましいという観点によるもの。
だとしたら、父親でも同じことができるということが証明できれば、親権を取れる可能性が高くなるでしょう。
具体的には、常日頃から母親と同等に、もしくはそれ以上に家事や育児を実施していることを示すことが重要です。
- 日常的に家事をこなしている
- 育児(食事・風呂・排泄など)も問題なくやっている
- 離婚後に引っ越し・転園・転校の必要がない
- 祖父母と同居しており、サポート体制が安定している
- 兄弟姉妹と離れ離れにならない
「家事も育児もこれから頑張ろうと思う」「家事や育児は実家の母にやってもらう」
などといった甘い考えだと親権が取れないことがあるため注意しましょう。
交渉ポイント2. 母親が親権を持つことが相応しくないことを示す
母親に問題点がある場合、そこを強調することで父親が親権を獲得できることがあります。
- 家事をしない
- 育児放棄(ネグレクト)
- 子どもに精神的・肉体的な虐待をする
- 子どもを留守番させて夜遊びするなど、素行が悪い
- 肉体的・精神的な病気で育児ができない
- ギャンブルや浪費による借金がある
- 子どもが父親よりも母親に慣れ親しんでいる
上記のことを証明するには、何らかの証拠が必要です。
問題行為を写真や動画に記録したり、また近所の人の証言を得ておくなど、それなりの準備が必要となります。
証拠は自分でも用意できますが、客観的に見ても「母親が親権を持つのは相応しくない」と証明するような証拠が欲しいときは探偵事務所に調査依頼をするのもおすすめです。
交渉ポイント3. 子どもの「父親と生活したい」という意思
小さい子どもは意思能力が乏しいため、母親と一緒にいることが理想的だという「母性優先の原則」が適用されてしまいますが、小学校高学年程度の子どもであれば子どもの意思も十分尊重されます。
- 乳幼児〜10歳頃まで…意思能力が乏しいとされる時期。調停・裁判になったら「母性優先の原則」が適用される
- 10歳〜14歳頃まで…意思能力が認められる時期。子供の意思や希望も配慮される
- 15歳以上…子どもの意思が尊重される。調停や裁判時には子どもの意見聴収がおこなわれる。
常日頃から子どもと良いコミュニケーションが取れていれば、子どもは母親よりも父親を選ぶ可能性が高くなるでしょう。
【要注意】配偶者の浮気や経済状況は親権に影響しないことが多い
よほどのことがない限り、配偶者の浮気(不倫)や経済状況は親権に影響を及ぼさないとされています。
なぜなら浮気をしていても家事育児はできますし、経済状況が不安な場合でも父親からの養育費でカバーできると考えられているからです。
とはいえ、「妻が子どもを放置して浮気相手に会いに行っている」「妻が浪費家。多額の借金を抱えている」といった場合は別。
子どもを幸せに育てる環境も覚悟も整っていないのであれば、父親が親権を勝ち取る可能性は確実にアップすると考えられるでしょう。
母親の実態を調停や裁判所に提示できるよう、言い逃れできない強い証拠を押さえておくことをおすすめします。
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父親が親権を取りたいときは専門家へ相談・依頼を
これまで父親が親権を取った事例、また親権を取るための交渉ポイントを紹介してきましたが、実際は父親が親権を獲得するのはまだまだレアケースです。
法的な問題や交渉のサポートについては法律のプロ・弁護士へ、母親が問題行動をしている証拠を押さえたいときは調査のプロ・探偵事務所への相談・依頼をおすすめします。
実績のある専門家のサポートがあれば、より父親の親権獲得への期待が高まります。
多くの弁護士事務所・探偵事務所で無料見積もり相談をおこなっていますので、まずは無料の範囲内から利用してみましょう。
【補足】新たな制度「共同親権」はいつからはじまる?
現在のところ、日本では「子どもの親権は父親か母親のどちらか一方」という「単独親権」が導入されています。
しかし単独親権は「親権を持っていない親が養育費を払わない」「親権を持っていないため子どもに自由に会えない」「子どもとの面会を拒否される」などさまざまな問題点があるのが実状です。
この問題を解決・解消するために提案されているのが、2026年に施行予定の「共同親権」。
離婚しても父親と母親の両方が親権を持って2人で子どもを育てるという制度であり、すでに離婚が成立している夫婦にも適用される予定です。
しかし「DV・モラハラをする親にも親権が認められる」「子供が両親の家を行き来するようになると生活環境が安定しない」といった反対する声も多く、まだまだ議論が繰り返されています。
まとめ
「離婚は結婚の3倍大変」と言われており、慰謝料や財産分与、年金分割や引っ越しなど決めなければならないことが山積みです。
なかでも子どもの親権について揉める夫婦は非常に多く、裁判にまで発展することも決して珍しくありません。
調停や裁判になったときは「母性優先の原則」「現状維持優先の原則」が適応されるため、母親のほうが断然有利。
よって父親が親権を取りたいときは「父親と暮らしても子どもが幸せに育つこと」「母親が親権を取ることが相応しくない」をアピールすることが重要です。
法的な問題もあるため、1人で戦うのが心細いときは専門家に相談するのがベスト。
多くの弁護士事務所、また探偵事務所で無料見積もり相談をおこなっていますので、まずは無料の範囲内で相談することからはじめることをおすすめします。