そもそも地面師とは?簡単に解説
地面師とは、他人の土地の持ち主になりすまし、不動産会社やハウスメーカー、デベロッパー(土地の開発業者)などに勝手に売りさばき大金を騙し取る詐欺師のこと。
リーダー格の地面師を中心に複数人が組織を組み、「地面師グループ(詐欺グループ)」として実行するのが一般的です。
【地面師グループの組織図の例】
- 地面師…首謀者・リーダー・指示役・計画立案など
- 情報屋・調査役…土地探し・土地の持ち主の情報収集
- 手配役…土地の所有者になりすます人の手配
- なりすまし役…土地の所有者になりすます人
- 指南役…なりすまし役の演技指導
- 交渉役…騙す相手(買主)に売却の交渉
- 仲介役…交渉役と騙す相手の要望を調整
- 準備役…本人確認書類や印鑑証明書、パスポートなど偽造書類の準備・口座の準備
- 法律屋…土地の売買に関する法的手続き
主犯である地面師が騙す相手(土地を買う人)と対面することはなく、またメンバー全員が同時に顔を合わせることもほとんどありません。
組織が複雑なため、事件の全貌解明に時間がかかるのも地面師詐欺の特徴のひとつといえるでしょう。
実際にあった地面師詐欺事件!過去の事例を紹介
事例1. 「地面師たち」のモチーフとなった積水ハウス地面師詐欺事件
積水ハウス地面師詐欺事件とは、世界有数のハウスメーカー・積水ハウスが地面師グループに55億5千万円を騙し取られた事件。
2007年、積水ハウスは東京都品川区に存在した老舗旅館「海喜館」の跡地を購入するため、地主を名乗る女性と売買契約を結びました。
しかし、女性は地主になりすました偽者。
もちろん提出された書類等もすべて偽物で、結果的に積水ハウスは土地を取得することができず約55億5千万円も騙し取られてしまいました。
翌年2018年、警察は犯人のリーダー格・内田マイク受刑者やカミンスカス操受刑者、ほか計15人を逮捕(不起訴含む)。
約15億円分を国内外の捜査で回収しましたが、残りは回収できておらず、事件の真相もいまだ解明されていません。
この事件に関し、積水ハウスの関連部署担当者たちは懲戒解雇・降格・減給などの重い処分を受けています。
事例2. アパホテル地面師詐欺事件
アパホテル地面師詐欺事件は、全国に宿泊施設を展開するアパホテルが約12億6千万円を騙し取られた事件です。
2016年、アパホテル担当者は東京都港区の一等地を購入するため、不動産業等を営む男性・宮田康徳と、土地の所有者2人(兄弟)と売買契約を締結。
購入代金である約12億6,000万円を振り込みました。
しかし売買から6日後、法務局からの連絡により提出書類が偽造書類だったことが判明。
すでに宮田は海外へ逃亡、土地の所有者役を演じた2人も行方が分からず、アパホテル側はお金を騙し取られてしまいました。
翌年に宮田容疑者のほか、事件に関わったとして司法書士の亀野裕之、相棒の松元哲容疑者が逮捕されています。
事例3. 世田谷地面師詐欺事件(町田市事件)
世田谷区地面師詐欺事件は、不動産業を営む男性が5億円の売買代金を騙し取られた事件。
代金を振り込んだ銀行が町田市であったことから「町田市事件」とも呼ばれています。
2015年、不動産業の男性は知人から紹介された仲介業者に、東京都世田谷区のNTT旧社員寮の売却話を持ちかけられます。
男性は仲介業者だけでなく、本物の土地の所有者とも直接面会し、購入額を5億円で決定。
男性は5億円を仲介業者に支払いましたが、土地の所有者に売買金が支払われることなく、仲介業者に持ち逃げされてしまいました。
その後の捜査により、2017年に主犯格の北田文明容疑者、内田マイク容疑者らが逮捕されました。
【補足】地面師に騙し取られたお金は戻ってくる?
地面師やグループ員が逮捕されても、騙し取られたお金は買い主に戻らないことが多いようです。
残念ながら、警察には地面師たちにお金を強制的に返還させるような権限はありません。
また被害者が地面師たちに「不当利得返還請求」の裁判を起こしたとしても、地面師たちに返済能力がない場合は取り戻すことが不可能となります。
騙されたらお金を回収するのが難しいため、地面師の手口や対策を知り備えておくことが重要です。
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地面師の手口とは?狙われやすい土地も解説
大手企業の積水ハウスやアパホテルまでもが騙されてしまう地面師の詐欺手口。
詐欺の被害に遭わないためには、地面師の手口や見抜き方を知っておくことが必須です。
いったいどうやって準備を進め、どういう手口で詐欺を働いているのか見ていきましょう。
地面師の手口1. 詐欺に使えそうな土地を物色
地面師グループが最初にすることは、詐欺に使えそうな土地探し。
狙われやすいのは下記のような土地・物件になります。
- 放置されている土地・畑・空き家・廃アパート
- 所有者が高齢で施設に入居中、または病院に入院中
- 所有者が亡くなっており遺族がいない、またはどこにいるか分からない
- 抵当権がついていない
- 登記上、誰も住んでいない
共通しているのは「勝手に売却してもすぐには気付かれにくい土地・物件」ということ。
なかでも所有者が高齢、または不明の坪単価が高い競合地はターゲットになりやすくなります。
手口2. 売買に必要な書類の準備
土地を売却する際には、さまざまな書類が必要です。
- 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート)
- 印鑑証明書
- 住民票
- 土地の権利書、または登記識別情報通知書
- 確定測量図
- 固定資産評価証明書
- 納税証明書
- 都市計画税の納税通知書の写し
- 越境の覚書…隣地との境界線上に越境物(フェンス・電気の引込線・樹木など)がなければ不要
- 筆界確認書…境界線の位置を確認した旨を示す書類
上記のような書類を地面師グループの準備役が偽造・作成。
出来上がった書類はホログラムや透かしなども完璧に偽造されており、プロがペンライトを当てて確認しても見破れないほど精巧だといわれています。
手口3. 地主になりすます人を準備
地主になりすます役は、最初に逮捕される可能性が高いポジション。
よって、地面師グループとは無関係の人物を「使い捨てのコマ」として安い報酬で採用するのが一般的です。
なりすまし役に選ばれるのは、目先の金に困っている人、身寄りがない人、また認知能力に問題が生じている高齢者など。
相手を騙すため、地面師グループ員による演技指導がおこなわれるほどの徹底ぶりです。
万が一なりすまし役が逮捕されたとしても、地面師、またはグループ員の情報を聞き出せないなど警察の捜査が難航するよう周到に企てられています。
手口4. 不動産業者に売却話を持ち掛ける
土地・偽造書類・なりすまし役が揃ったら、不動産業者に売却話を持ち掛けます。
- 競合地であるため、早く決断しないとすぐに売れる可能性がある
- あなたのライバル社が同土地の購入を考えている
- 今なら相場よりも安い値段で購入できる
上記のように話術巧みに買い主の心理を揺さぶり、購買意欲を掻き立てるのが地面師詐欺の手口。
ほかの業者に取られるまいと焦って契約をし、不可解な点に気付かないままお金を騙し取られるケースが大変多いようです。
地面師に騙されない!見抜き方と対策を解説
詐欺のなかでも、特に見抜くのが難しいといわれている地面師詐欺。
騙されないためには、売却の手口だけでなく対策を知っておくことも重要です。
本章では、地面師の見抜き方のポイントと対策について解説していきます。
見抜き方と対策1. 偽造書類に騙されない
前述したとおり、地面師側が偽造した書類はプロでも騙されるほど精巧。
よって、売り主側が用意した書類は複数人の目で二重三重にチェックすることがポイントです。
特に、所有者の本人確認書類は1つだけでなく複数種類用意してもらうことをおすすめします。
- 本人確認書類は複数種類(運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど)を用意してもらう
- 各身分証明書に相違点がないか、信憑性・整合性があるかしっかり照合する
- 信頼できる司法書士・弁護士に提出書類を確認してもらう
- 対象となる土地・物件の近所の人たちに本人確認書類の顔写真を見てもらい、実際の所有者の顔と一致するか確認してもらう
- 契約の場で所有者と各身分証明書の顔写真を直接確認する
- 契約の場で所有者に口頭で誕生日や干支を言ってもらう
売り主側が連れてきた司法書士や弁護士などは偽者の可能性があります。
必ずこちら側で信頼できる司法書士・弁護士を準備しましょう。
見抜き方と対策2. 公的機関で土地の所有権を確認する
対象となる土地の所有権を確認することも詐欺の被害を防ぐ大事なポイントです。
管轄の法務局に出向いて登記簿謄本を取得し、記載されている所有者と実際の所有者が一致しているか情報を確認しましょう。
この際に、固定資産税がきちんと支払われているか納税証明書の確認も忘れないようにしてください。
見抜き方と対策3. 土地の所有者・仲介人の身元を調べる
土地の所有者はなりすましではないか、また売却話を持ち掛けてきた仲介人(交渉人)は信頼できる人物なのか、身元をしっかりと調べるのも詐欺防止に有効な対策のひとつ。
身元を調べるときは、調査のプロである探偵事務所に依頼するのがおすすめです。
探偵は尾行・張り込み・聞き込みなどさまざまな方法を用いて、土地の所有者や仲介人が信頼に値する人物か否かを突き止めていきます。
調査の結果により地面師ブループの一員である可能性が高いときは、警察への相談・通報をおこないましょう。
見抜き方と対策4. 契約を焦らない
地面師側は売却時に「買い主候補者が複数人いる」という話をする傾向がありますが、実際はそうではないケースがほとんど。
土地の購入に意欲的な人・業者を見定めて売却をおこない、言葉巧みに相手を焦らせて早急に契約・支払いをさせるのが目的です。
少しでも怪しい点があったら、その場で契約せずに一旦帰ってもらう、または契約の延期を申し出ましょう。
見抜き方と対策5. 支払いを急がない
また契約だけでなく、支払いを急かす場合も注意が必要です。
- 売り主が借金の返済に困っている。お金は明日にでも支払ってほしい。
- 融資ではなく現金で決済してほしい
- 売り主は近いうちに大きな投資を予定している。早急に資金を必要としている
土地を購入する際は、売買契約を結ぶときに手付金(代金の10%前後)を、登記関係の事務的な手続きが終わった後に残りの代金を支払うのが一般的。
通常であれば、1回目の支払いと2回目の支払いまでの期間はおよそ1カ月程度になります。
やたらと入金を急かしてくる場合は、念のため書類などの再確認や所有者と仲介人の身元の再確認をおこなうなどの対策をおこないましょう。
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